このシューズは、2006年に製作し、2007年SPRING&SUMMERシーズンに、
H?Katsukawa From Tokyoのデビュー作として世に出ました。
少しユニークなシューズでしょう?
ボサボサしているし、底から紐が垂れて、それはまるで製造途中のようです。
このボサボサした部位は、ニベという牛の皮で皮膚の体に一番近い部分の子の質感を、
加工せず、そのままタンニンなめしを施し、「NIBE LEATHER」と自ら命名したオリジナルレザーです。通常は、皮革では使われない部分を使用しています。
捨てられていた革の破片からこの素材感を発見して、その素材感を最も生かすレザーをオリジナルで開発する事からブランドがスタートした経緯があります。
日本の靴メーカーに勤務したのち、イギリスにある靴の産業地ノーザンプトンの職業訓練校にまで留学した私が、このような素材でデビュー作を製作するに至ったかと言いますと、そもそも、イギリスの伝統的な紳士靴に魅了され靴の世界に入りましたが、それらはイギリスという国の文化から生まれたもので、揺るぎない伝統文化と意匠と価値観があります。日本人の私がそのイギリスの文化である靴をデザインする時には、イギリスの伝統文化と意匠と価値観にはない、デザインや価値観を盛り込みたいと考えました。
一般的に西洋で美しいとされるカーフのスムースレザーとは真逆のこのニベレザーから、伝統文化の意匠や価値観とは離れた美しさを盛り込んで、新しい視点の紳士靴を目指しました。ニベレザーには、あらゆる薀蓄を吹き飛ばすだけのインパクトや感動があります。
この都市生活において皮革を身に着け小さな自然を感じる事が、現代における都市生活を豊かにすると考え、最も皮革の風合いを感じるであろうこの質感のNBE LEATEHRを製作しました。
東京という都市で生まれ育ち、都市のルールの中で生きてきました。
そもそも都市とは、例えば舗装された道路や、電燈、地下道など、自然から乖離することで利便性を追求しています。
そういった環境では、便利さの反面、全ての源である自然への意識が希薄になります。そもそも備わっている自然としての人間の感性が鈍くならざるをえません。
都市生活において、動物の繊維を身にまとうことは、決して人工ではつくれないその繊維を感じることが、自然を感じることであり、小さくても自然崇拝的感覚を取り戻すきっかけになるのではないかと考えています。
太陽も、海も、植物も、動物も、与えられた恵みです。それを都市生活で感じることが、現代において豊かさのひとつになると思います。
それを体現するのに、皮革はうってつけの素材だと思います。
ぜひ、そのイノチを身に着けてみてください。
参照:MITSUKOSHI ISETAN JAPAN SENSES THE HEART OF JAPAN vol.9